【医師解説】わずか1年で骨を改造する？最強クラスの治療薬「イベニティ」の実力

「骨密度が低すぎて、いつ骨折してもおかしくないと言われた」 「とにかく短期間で、確実に骨を強くしたい」

 

そんな切実な願いを持つ患者さんにとって、現在「最強の切り札」と呼べる薬が存在します。それが2019年に登場した新しい治療薬、**「イベニティ（一般名：ロモソズマブ）」**です。

 

月1回の注射を1年間続けるだけで、驚異的なスピードで骨密度を回復させるこの薬。なぜそれほど効くのか？ そして、なぜ「1年限定」なのか？ 整形外科専門医が、その画期的なメカニズムと注意点について解説します。

 

 

【世界初！「アクセル」と「ブレーキ」を同時に踏む薬】

骨粗鬆症の薬はこれまで、「骨を作る（アクセル）」か「骨が壊れるのを防ぐ（ブレーキ）」のどちらか一方の作用を持つものが主流でした。

 

しかし、イベニティはその常識を覆しました。**「骨形成の促進（骨を作る）」と「骨吸収の抑制（破壊を防ぐ）」という2つの作用を同時に行う（デュアル・エフェクト）**ことができるのです。

 

 

【たった1年で骨密度が13％アップ？】

この「二重効果」の威力は絶大です。 臨床試験のデータでは、1年間の投与で腰椎の骨密度を約13％以上も上昇させたという報告があります。

 

これは既存の骨粗鬆症薬の中でもトップクラスの数値です。「ゆっくり治す」のではなく、「短期間で一気に骨の構造を立て直す」ことができる、まさに緊急救命的な役割を果たせる薬と言えます。

 

 

【治療期間は「12ヶ月」一本勝負】

イベニティの大きな特徴は、投与期間が決まっていることです。 「月に1回、皮下注射を12回（12ヶ月間）行う」。基本的にはこれでワンクール終了です。

 

「ずっと続けた方がいいのでは？」と思うかもしれませんが、この薬は1年以上使い続けても効果が頭打ちになることが分かっています。

 

そのため、最初の1年でイベニティを使って骨密度を爆発的に上げ、翌年からは「プラリア」や「ビスホスホネート製剤」などの「守りの薬」に切り替えて、増やした骨を維持するというリレー形式の治療が行われます。

 

※テリボン（24ヶ月制限）とは異なり、生涯で1回きりではありません。数年の間隔を空ければ、再投与が検討される場合もあります。

 

 

【費用と副作用、そして「心臓」への影響】

効果が最強なら値段もそれなりにします。 3割負担の方で月額約15,000円、1割負担の方でも約5,000円かかります。

 

他の薬に比べると高価ですが、将来の骨折入院費や介護リスクを考えれば、十分に投資する価値のある「骨への集中工事費」と言えるでしょう。

 

 

・注意すべき副作用：心血管イベント

副作用で最も注意が必要なのは、心臓や血管への影響です。

海外のデータで、ごく稀に脳卒中や心筋梗塞のリスクが高まる可能性が報告されています。

そのため、「過去1年以内に脳卒中や心筋梗塞を起こしたことがある方」には使用できません。

逆に言えば、1年以内にそういった病歴がない方であれば、過度に恐れる必要はありません。もちろん、治療中は医師が体調をしっかり管理します。

 

・その他の副作用

注射した場所が赤くなったり痛んだりする（注射部位反応）ことや、カルシウム値の低下があります。治療中はカルシウムとビタミンDのサプリメント併用が必須となります。

 

 

【まとめ：人生を変える「1年」にするために】

イベニティは、以下のような方に特におすすめされる薬です。

 

・すでに骨折を起こしており、再骨折のリスクが高い方

・骨密度検査（YAM値）が著しく低い方

・他の薬を使っていたが、骨密度が上がらなかった方

 

「骨形成薬から始める（アナボリック・ファースト）」という治療戦略において、イベニティは現在最も強力な選択肢の一つです。

 

「1年頑張れば、骨は変わる」。そう信じて、主治医と相談しながら治療の第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

 

 

【記事監修】

整形外科専門医 金井 研三 骨粗鬆症の予防と治療に情熱を注ぐ専門医。「食から骨を守る」をコンセプトにした「コツコツグルメ」を運営し、薬物療法だけでなく、毎日の食事や栄養管理の重要性を発信している。

 

 

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